2018年1月2日火曜日

AIM-9X

 年末年始といえども、代り映えしないものですな。前回Mk41 VLSの話でちらっと出てきた「洪水」から、艦のダメコンの話でも書こうかと思ったけど、長くなりそうなのでキャンセル。興味がある人は空母フォレスタルでググってください。ナショジオの「衝撃の瞬間」とかも面白いよ。油火災の対応とかもある程度理解できます。空母事故も天ぷら火災も似たようなもんです。

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 AIM-9Xについて。AIM-9は言わずと知れたミサイルであろう。
 AIM-9X Blk Iでは、対地攻撃能力(Sidewinder’s Surface Attack Capability)を持っている。AIM-9XにBlock Iという名称は見当たらないが、Block IIの前、という意味なら、最初の頃のAIM-9Xを指すのであろう。

 2010年3月と5月に行われたテストでは、キャプティブ弾を使った7回のテストと、実弾を使った6回のテストが行われ、内、実弾のテストでは4発が命中、1発が指定した目標とは別の目標のに命中し、1発はロックを失った、らしい。
 その前に行われた、2007年3月の試験では、米空軍F-15Cが移動する装甲兵員輸送車に対してAIM-9Xを発射し、これを破壊した。翌年2008年4月に行われた試験では、米空軍F-16がAIM-9Xを発射し、移動中のボートを沈めた。


 最近の攻撃ヘリコプター(e.g. AH-1Z、AH-64)はAIM-9を搭載可能だから、対地攻撃用のミサイル、あるいはその予備として、AIM-9Xを使うことができるかもしれない。もちろん、戦車を相手にするならAIM-9Xの弾頭では無理だろうが、ちょっとした装甲車や、非装甲目標なら問題ないはず。対空装備で待機しているF-15やF-16を対地攻撃の即応機として使うこともできるだろう。ま、それならM61で十分だろ、という気もするが。
 F-16のSEAD機はECMポッド、HTSポッド、2x AGM-88、2x AIM-120、2x AIM-9、2x 増槽といった構成になっているが、コストや機動性を無視すれば、この装備は対空戦闘にも、対地攻撃にも、防空網制圧にも、オールマイティーに使うことができる。
 フィクション的には、「早急に対地攻撃が必要になったが、対地装備の機体はないのか?」「AIM-9Xを搭載したスクランブル待機機が使えるぞ!」みたいな事もできるかもしれない。

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 ミサイルの模擬弾には、完全なダミー(見た目だけ似てる)というのが一般的な「模擬弾」だろうが、実際にはイナート(Inert)と呼ばれるタイプと、キャプティブ(Captive)という2種類がある。イナート弾は外形と重量を模擬している。重量や重心は本物と同じ為、飛行訓練で使ったり、ミサイルの装填の訓練にも使用される。キャプティブ弾は、イナートに加え、いくつかの電子機器が追加されており、実際にロックオンを行い、発射ボタンを押すところまでの訓練ができる(発射ボタンを押しても発射はされない)。どちらも装薬されていない点は同じ。弾頭の炸薬や、推進剤等の火薬は入っていないため、火薬に関する(危険物としての)手順は省略して扱うことができる。
 ミサイルを装填する訓練を行う際は、本物のミサイルと同じ重さ・重心・形状で訓練する必要がある。しかし装薬や電子機器は必要ない。練習で使うため、落としたりぶつけたりする可能性もある。なので、危険な火薬や高価な電子機器は省略した物(イナート)を使う。戦闘機で飛行訓練を行う場合、単純に飛ばす訓練だけなら、ロックオンしたりする必要はないので、イナートを使う。ただし、電子機器が必要ないとはいえ、機体等とデータをやり取りする配線のコネクタが付いていたりはするが。
 一方、戦闘機の訓練で実際に撃墜の手順を訓練する場合、ロックオンを行う必要がある。AIM-120のような、中間誘導を行うミサイルの場合は、発射時にミサイルのロックは必要ない。しかし、AIM-9Mのような、発射前にロックオンが必要なミサイルの訓練を行ったり、AIM-120等でも中間誘導を使わずに発射する訓練を行う場合は、実際にロックオンを行うための電子機器が必要になる。また、ロックオンされた状態から逃げる、あるいは、ロックオンされないように逃げる訓練を行う場合にも、本当に正しい機動を行っているかを確認するのに、本物の電子機器が必要になる(敵が使うミサイルとは別のシステム、という問題はあるが)。この場合、追いかける方は、実際にロックオンが可能なキャプティブ弾を使用する。
 最近の軍用電子機器は高コストなので、形(と重さ)だけのイナートより、電子機器を搭載したキャプティブのほうが高価格になっている。はず。それでも本物のミサイルよりは格段に安いだろうし、火薬としての取扱も必要ない。

 最近、というか、夏頃によく行われていた、PAC-3の展開訓練では、よく見るとINERTと書いてある発射機を使っている(全て確認したわけではないから、場合によっては違うかもしれない)。展開訓練というのは、平時に部隊がいる場所から、迎撃予想地点まで移動するのにどれくらい時間がかかるか、どういった支障があるか(道路の凹凸は大丈夫か、支障になるような高架は無いか、雨で崩れそうな斜面はないか、カーブや交差点は通れるか)、といったことを調べるのが主な目的なので、実際に撃てるミサイルを持っていく必要はない。なので、安価なイナートを使う。もちろん、イナートだとしても、本物のミサイルと同様の扱いをしなければ、訓練としての意味が無いので、危険物(火薬)を運搬している、という認識を持つ必要はあるが。

 基本的に、INERTやCAPTIVEの場合は、ミサイル本体やキャニスターに水色の帯が書いてあり、場合によってはさらにINERTと書いてあったりするので、見ればすぐに分かる。このミサイルは安全か、慎重に扱うべきかを見分けるためのものだから、ひと目で分かるようにマーキングされている。基本的に、水色の帯がない場合は実弾として扱う。
 戦闘機に搭載するミサイルでは、弾頭に炸薬が入っていれば黄色の帯が、推進用のロケットに推薬が入っていれば茶色の帯が書いてある。どちらも危険物だから区別する必要はない気もするが、もしかしたら発射だけの訓練で使うための、炸薬抜きで推薬入りミサイルがあるのかもしれない。

 余談だが、航空自衛隊では、訓練を行う際は、毎回イナートやキャプティブに積み替えるようにしている。以前は、訓練をするたびにミサイルを積み替えるのは大変だからと、実弾で訓練を行っていたが、それで事故を起こしてしまったため。

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Raytheon AIM-9X Block II Air/Air Missile | Defense Update:

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/* ダメコンは長くなりそうだから、と思ってAIM-9Xの妄想を書き始めたのに、イナートとキャプティブで想像以上に長くなってしまった。。。 */


追記:2018/01/03

F-18C of VX-4 with 8 AIM-120 missiles in 1992

 この写真はF/A-18Cに10本のAIM-120と、2本のAIM-9を搭載しています。SRMはAIM-9Mあたり、MRMはAIM-120Aあたりでしょう。撮影されたのが1992年で、AIM-120の初期作戦能力が91年、フル生産が92年、米海軍の初期作戦能力が93年なので、この写真は海軍が採用試験を行っている最中に撮影されたものなのかもしれません。「こんなにたくさんのミサイルを搭載できますよ!たくさんの敵機が来ても安心ですよ!」みたいなデモンストレーションをしていたのかも。
 さて、上に書いたイナートと実弾の話ですが、この写真のAIM-120は、よく見ると、茶帯2本と黄帯1本のミサイルと、青帯2本のミサイルがあることがわかります。茶帯と黄帯が実弾、青帯がイナート(もしくはキャプティブ)なので、この写真では10本中3本が実弾、残り7本が模擬弾、ということになります。
 この写真では、青帯は茶帯の場所にしか書かれていませんが、最近のAIM-120の模擬弾では、黄帯の部分も青帯が書かれています。
 実弾と模擬弾を混ぜて搭載する理由は不明ですが、大量のミサイルを搭載して、本当に発射できるのか、といった試験を行っていたのかもしれません。ミサイルは重量的に搭載することができたとしても、上層部が「この組み合わせで飛行しても大丈夫」と文章にしない限り、実際に飛ばすことはできません。また、飛ぶことができたとしても、「この組み合わせでミサイルを発射しても大丈夫」としない限り、発射することはできません。例えばF-14はミサイルの試験中に「自分が撃ったミサイルが自分の腹に命中する」という事故を起こしています。こういう事が無いように、実際に試験をした組み合わせでなければ飛行/発射は許可されません。また、新型機の試験中に戦争が発生してしまった場合は、試験をある程度省略して許可を出す場合があります。例えばF-15Eは試験中に湾岸戦争が始まってしまい、応急的に兵器の使用許可を出していたようです。平時は事故が発生すれば莫大な損害が発生しますが、戦争中であれば、危険を犯してでも使ったほうが良い、という判断がされるようです。イージス艦のミサイルでも、製造上の問題が判明し、「平時の訓練では仕様を禁止するが、戦時に使うのは許可する」という運用が行われているものがあります。

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