2018年9月5日水曜日

PRF:パルス繰り返し周波数

 レーダーのPRFについて、自分なりに考えてみたのでメモ。

 レーダーのパルスは、単発だと以下のような形になる。

 このパルスのパワースペクトルは以下のようになる。
このパルスは5Hzの正弦波を主成分としているので、5Hzの位置にピークが有る。ただし、純粋な正弦波ではないので、山成なスペクトルとなる。このスペクトルからドップラー成分を取り出す場合、山がどれくらい移動したかを計測する必要があるので、信頼性が低い。


 ここで、パルスを繰り返してみる。PRTは1sec、PRFはPRTの逆数なので、PRF=1Hzとなる。
スペクトルが細くなっていることがわかる。PRF=1Hzなので、1Hzごとにピークが有る。

 PRT/PRFを変えてみる。今度はPRT=2sec、PRF=0.5Hzの波形。
PRF=0.5Hzなので、ピークも0.5Hzごとになる。

 ドップラーシフトを計測する場合、このピークの位置がどこに有るかを計測することになる。
 例えばPRF1Hzの場合、ピークが5Hzにある場合はドップラーシフトが0Hzということになり、ピークが5.3Hzにある場合はドップラーシフトが0.3Hzということになる。
 ここで問題になるのは、PRFが0.5Hzの場合。もしもドップラーシフトが0.3Hzだとすると、5.0Hzのピークよりも5.5Hzのピークのほうが近いため、「ドップラーシフトは-0.2Hzである」と誤認してしまう。つまり、PRFを低くした場合は高速な目標の速度を誤認することになる。


 PRFの低高の差について。
 最大探知距離は、PRFに反比例する。PRFが高い場合は遠くの目標を近くにあると誤認する。
 更新レートはPRFに比例する。鋭いスペクトルを作るにはある程度のパルス数が必要であり、PRFが低い場合は同じパルス数を観測するのにより長い時間が必要なため。
 観測可能速度はPRFに比例し、エイリアシングはPRFに反比例する。PRFが低い場合はピーク間隔が狭く、ドップラーシフトの絶対位置を誤認する。高速な目標を見るにはPRFを高くする必要がある。


 なお、上記の図は周波数空間で処理する場合の話。時間空間で処理する場合は当然別の処理になるが、PRFの関係は変わらないと思う。

 また、パルス圧縮を使う場合は全く別の処理になる気がする(遅延線を使うならドップラーも直接取り出せるんだろうか?)。

 あと、ピークのドップラー検出を行う場合、複数のドップラー成分があると面倒な気がする。ということは、ファンビームはドップラー検出に不向きで、ペンシルビームはドップラー検出に有利、ということか?
 そもそもファンビームは捜索がメインで、追尾はペンシルビームで行うだろうから問題ないのかも。

 戦闘機のレーダーの解説を読んでいると、PRFと捜索距離が比例する、というのが定説らしい。PRFが高い場合は遠くの目標からのエコーが帰る前に次のパルスを出すので、PRFと探知距離は逆比例するはず。戦闘機のレーダーはそのあたりうまく処理しているのかもしれない。積極的に2次エコーを使うとか?


 ちなみに、F-15のレーダーは10GHzあたりを使っているらしい。また、高PRFで200kHz程度、中PRFで10kHzらしい。それぞれ100kHz、5kHzのドップラーシフトまで計測できるので、高PRFではマッハ4程度まで、中PRFでは300km/h程度までを計測できる。近年の巡航ミサイルの高速化でマッハ4を超えることを目標にしたものも出てきているようだが、そうなると旧来のレーダーでは正しく処理できないかもしれない。

 船舶レーダーだとSバンド(2.4GHz)やXバンド(9GHz)が使用されているらしい。船舶の速度を最大50km/hとすると、Sバンドで250Hzくらい、Xバンドで900Hzくらいまで、ということか。もっとも、船舶だと自分が移動しているので、真正面・真後のシークラッタのシフトがこれくらいの量、ということになる。正面から対向するなら倍のシフトになるし、同じ方向に進むならシフトはゼロになる。

 戦闘機のレーダーでも、巡航でおよそ1000km/hとすると、真正面の地面は常に20kHzのシフトが有ることになる。ドップラーレーダーの場合は20kHz程度のシフトは表示せず、それより大きい・あるいは小さいシフトのエコーは表示する、という実装になるはず。

***

 細かい理論はサッパリだが、レーダーは調べてみるといろいろ面白い。
 でも、実物を試すことができない、という点はつまらない。
 昨今、自動運転に向けて車載レーダーを目的としたシミュレータもいろいろと出てきているが、もうしばらく経てばフリーソフトでレーダー反射をシミュレーションできるソフトウェアとかも出てくるだろうか? 細かい機能はあまりいらないので、空間にいくつか簡略化した物体を配置して、ビーム幅を指定して電波を出したら受信波形をシミュレーションしてくれる、みたいなのがあると楽しそう。多少のことは実空間の超音波でも模擬できるだろうけど、一定のドップラーシフトを作る、といったことは不可能。

 最近は超音波で遊ぶというとパルス圧縮ばっかりだったけど、固定周波数のパルスを送って解析というのもアリかもなぁ。
 マイコンだと処理速度やメモリの制限が強すぎるので、PCで超音波を送受信できるインターフェースが有ると良いかもしれない。例えばライン出力でIQ信号を出して、40kHzを掛けて送信、受信波をヒルベルト変換して40kHzを掛けてライン入力に入れる、みたいなハードウェアが有れば良いわけで。
 STM32でもUSB Audioはできるけど、USB FSだと帯域幅が足りないらしい。市販のUSBラインIN/OUTインターフェースに接続したほうが良いだろうな。
 ハイレゾオーディオだと192kHzのDACがあったりするけど、ADCも必要だし、そもそも192kHzだからといって50kHzが出せるとも思えない。
 STM32のADCを2chでIQを受信して、2値化、あるいはPWMで40kHzを出して、ADCで信号を受信して、それをDAC2chでIQ信号として送信、という感じだろうか。十分できそうな気もするけど、ヒルベルト変換がよくわからないんだよなぁ。C#でオーディオを気軽に扱えない、という問題も有る。

 とりあえず、しばらくはパルス圧縮の方を進めていく予定。

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